8050問題を考えるセミナー2021報告 第二回 講師:児島 献一

若者支援の視点から8050問題を考える

  • 講師 :横浜市青少年相談センター 相談支援担当係長 児島 献一
  • 2021年10月30日(土)

講師紹介

児島献一
横浜市青少年相談センター 相談支援担当係長

福祉系の大学を卒業後、高齢者施設で勤務後、横浜市に入庁。生活保護CW、精神保健福祉の相談員、
こころの健康相談センターを経て、2021年10月現在 青少年相談センターで相談支援係長として勤務。

以下の文章はセミナー当日の講師のお話を書き起こし、修正したものです。

横浜市青少年相談センターの相談支援について

横浜市青少年相談センターは現在、概ね15歳~39歳までの青少年とそのご家族が対象。青少年の総合的な相談を受けています。ひきこもり、不登校、家族関係、友人関係、就労、など幅広い相談をうけています。継続的なご相談をご希望される場合には、担当の相談員を決めて、ご本人またはご家族との個別面談を行っていきます。

また、利用者と相談しながら、必要に応じて支援メニューの利用もできます。

訪問支援については、ご家族と相談をし、ご本人の意向をふまえながら、担当相談員と話し合って決めていきます。担当相談員と面談を繰り返したり、レクレーション、テーマに沿った話合い、スポーツ、外出などのグループ活動をおこなったり、喫茶店、リサイクルショップなどの販売や接客体験など、支援メニューを利用しながら、ご本人、一人ひとりの不安や悩みに合わせ、担当相談員と社会参加に向けて、一緒に考えていきます。

ご家族向けの支援では、ご家族が集まって分かち合う保護者の集い、講師などによるご家族向けの情報提供をおこなう家族セミナーや、グループで学びあう家族勉強会などがあります。またひきこもり地域支援センターとして年齢にかかわらず相談を受けています。

ご本人からのご相談では、これからどうやって生きていいかわからないなど漠然とした相談もあります。親御さんからはお子さんのひきこもり、不登校、精神的な不調など幅広い相談を受けています。ひきこもりを主訴とする相談もありますが、いろんな辛さを語ってくださり相談支援が始まるという事が多いです。

ご家族を支える必要性

青少年相談センターの支援の流れはご家族支援から始まることが多く、全体のご相談のうち3割程度はまだご本人が登場していません。見通しのたたない事態への不安や焦る気持ちを本人にぶつけてしまったり、なかなか相談できなかったりして、家族全体の孤立化につながってしまうことがあります。

相談員は、親御さんと、まずは小さな変化を一緒に見ていく事を大事にしていくこと、親御さん自身の楽しみをつくるようにもお話します。ご家族が元気になることで本人にも良い影響が生まれるということを相談員と一緒に見てきています。いつまで待てばいいんですか?と言われた時に、回復の道すじの図を見ながら一緒に考えていくこともあります。ご本人の状況を想像しながら、ゆっくり見守る時期もあれば、少し変化のサインがでたところで小さな目標や刺激が必要な時期もあると思います。 ひきこもりからの回復過程のイメージを一緒に共有しながら、ご本人に届くように家族を支援していく事を大事にしています。

主訴を考え、耳を傾ける

親御さんとの相談をする際に見えている部分、図の海の上に浮かんでいる部分だけを見るのではなく、海中の部分を見ていく、主訴を想像しながら支援するように気をつけています。「死んでやる」と言ったときに「死にたいほどつらい」というような、その言葉の中にある本人の想いを聞かないで〈死なないように見張る〉というような事をするのでは、本人にとって理解された感覚にはならないと思います。海の中をご家族と一緒に想像していくのが大切です。

若者支援の視点からひきこもり支援、8050問題を考える

近年、いくつかの事件を通して、ひきこもりが長期化すると8050になるのかもしれないという危機感から、ご相談を受ける事が増えています。ひきこもり状態で困っている本人・家族の方は、ひきこもりは相談の対象であるという事、そして家族だけが抱えるのではなく、社会全体で考え、支える事なのだという事を知っていただく必要があると思います。

相談対象のひきこもりって?

ひきこもりといえば、「家族との交流がなく自室から出ない」、いわゆる部屋にこもっている方という社会認識があるかもしれませんが、実際はそれほど多くなく全体の5~10%ぐらいと言われています。「外出するが家族以外との接触がない」という方が多いです。

このような方も相談対象になる事を改めてお伝えしたいと思います。共通しているのは、家族以外との交流はなくて、社会的孤立を抱えている、感じていることがあるという事です。ひきこもり状態のご本人もしくはご家族がつらい思いをしている方は相談対象です。

ひきこもりの定義は「ひきこもりの評価・支援のガイドライン」に記されています。現在は全国に設置されているひきこもり支援センターはこのガイドラインを参考にしていると思いますが、このガイドライン自体は思春期支援研究から始まっていることもあり、若者支援にはマッチしていますが、中高年の引きこもり支援の視点が少ないので、今後、見直しがされていくのではないかと考えています。

親御さんにとっても青年期の支援はどう見守り、手放していく支援、ご本人の成長の変化を見ていく支援だと思います。一方で、中高年の支援は、対象の方が就労などの経験のある方も多く、経済的な不安、生活の安定など、また少し角度が違う多様なニーズがあると思います。無理にひきこもり状態を脱することだけに注目するよりも、場合によっては、今の生活を維持していくためにどうしていきましょうか? と問いかけながら関わっていく方が、関係性が結びやすいこともあります。若者以上にご自身のエリアに入っていく事に拒絶感がある方が多いので、情報共有はするけど、強要はしないというスタンスの支援になっていくのかと思います。

区役所も相談できることを知っておく

区役所には生活安定させるための福祉サービスが揃っていますが、その制度は複雑でわかりにくい側面があります。包括的に福祉サービスを提供できる区の福祉保健センターにどんな支援が受けられる可能性があるのか一度相談に行っていってみるのもいいと思います。ひきこもり支援の相談窓口として、期待されるのは以下の窓口です。

□ 生活支援課
生活困窮者自立支援法の自立相談支援窓口があります。生活困窮というとハードルが高く感じると思いますが、今現在の生活に困窮しているということだけではなく、今後の生活のセーフティーネットの窓口として困りごとの相談を受けています。

□ 高齢・障害支援課(障害者支援担当)
身体・知的・精神の3障害対象のサービス提供ができますが、中でも精神保健福祉相談の一環としてひきこもりも含む相談ができる窓口です。

この窓口に限らず、どのような情報が本人にヒットするのかわからないので、メインの相談先があっても今後、頼れる先・情報を取る先は増やしたほうがいいと思います。

多様なつながりと居場所と出番のある地域

マズローの欲求段階をひきこもり支援に当てはめてみると、ひきこもった経験がある方に、衣食住や安全な場所が確保されないと次の段階に行けないと思います。次に家の中外に安全圏を増やしていく居場所や必要とされ、自分を認められる場が必要な段階になります。

行政的な支援はピラミッドの下の部分、生理的欲求、安全の欲求に対して福祉制度を適用させていく事は得意ですが、3段目上の部分所属や愛の欲求、承認欲求、自己実現の欲求に対する支援は、それこそとても多様なニーズになりますので、民間の支援団体と連携をとりながら、一緒にこの段階を支援したいと思います。

8050支援は多様な支援、多様なゴール、多様な情報を提供するべきだと思っています。ひきこもり支援は総力戦だといわれています。今も、多くの機関が関わってくださっていますが、それをネットワークでつなげていくのは、行政の役割の一つだと思っています。また、ご本人に支援が届きにくいので支援ができないのではなく、そのご家族も含めて孤立化しないように、ご家族を支援していく事もとても大切なことだと考えています。

相談をするということは、主体的な行為でハードル高い事かもしれません。ご家族やご本人がご相談にくるまでの苦労を想像しながら、つながる支援をしていきたいと思います。

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