8050問題を考えるセミナー2020報告(3)講師 : 巻口徹氏

「8050問題と生活困窮者自立支援制度」

8050問題ということで、ひきこもりのご家庭の懸念事項となる可能性の高い、経済的な不安に焦点を当て、3つのテーマからお話します。

生活保護制度の基礎知識、生活困窮者自立支援制度の概要、8050問題への対応についてです。

1.生活保護制度の基礎知識

まずは生活保護制度に関する質問をします。

「働ける人」「ホームレス」「扶養能力のある親族がいる人」「借金がある人」「持ち家のある人」は保護を受けられないのでしょうか?

答えはそのすべてが×です。

世間ではまだまだ誤解されていますが、憲法第25条、生活保護法1条ではどのような生活をして生活困窮に陥ったのか、その原因で差別することはしないことを規定しています。

生活保護には補足性の原理があり、あらゆることを活用しても最低生活が営めない場合に、最後の手段として適用される原則があります。

若いのに働いていない、と医療機関からの診断書を求めるところもありますが、診断書はお金がかかるので本来は求めてはいけないのが原則です。

2.生活困窮者自立支援制度の概要

生活に困窮する人にはかつて生活保護しかありませんでした。

この新しい制度は、2008年のリーマンショックに始まった金融危機の影響で大規模な労働者派遣契約の打ち切りと、それに伴う派遣業者による労働者解雇・雇い止めがあったことがきっかけです。

イメージとしては労働保険制度と生活保護制度の間に第2のセーフティーネットとしての位置づけです。

生活困窮者自立支援法第3条には、生活困窮者とは現に経済的に困窮するのみでなく、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者で、本人が困窮を訴え、本人に困り感があり、支援を必要としているかが根幹になります。

もちろん、ひきこもりも対象になります。

制度の目指す目標は、①生活困窮者の自立と尊厳の確保、②生活困窮者を通じた地域づくりです。

自分の居場所や役割、働く場所、社会に参加する場を持ち社会的つながりを回復し、相談者自身が地域の担い手になるイメージです。

孤立を防ぐ地域づくりが大きな特徴となっています。

横浜市の特徴

相談支援の窓口が区役所になっていて、直営で「断らない支援」がモットーです。

内容は大きく分けて居住確保支援、就労支援、緊急的な支援、家計再建支援、子ども支援、
その他支援です。

その他支援は丸ごと地域共生社会の実現を目指し、単に制度の利用にとどまらずインフォーマル
な支援も積極的に取り入れています。

自立相談支援の中には、地域若者サポートステーションも含まれています。

3.8050問題への対応

『北風と太陽』は、横浜市の生活保護行政のなかでテーマとしていた支援のあり方ですが、8050問題も同様。太陽にならなければ、と考えています。

調査によると、中高年になってからひきこもり状態になった方は多く、40歳以上が57.4%(60歳以上17.0%)、半数以上が母と同居。高齢の親と同居、長期間にわたっている。

きっかけは退職や職場関係が多く、「退職」36.2% 「職場になじめなかった」19.1%。そのうち正職員経験割合は70%で、働いた経験がある人が多いと言えます。

8050世代は若年者から引き続き長期化の問題がありますから、中高年の特性に応じた支援が必要です。若年者も同じですが仕事や職場が原因でひきこもった人に対して、原因を作った社会に逆戻りをさせる支援が果たして妥当なのかということをまず考えなければいけない。

現行の取り組みとしては、青少年相談センター。ひきこもり地域支援センターとしての機能があり、年齢にかかわらず相談受付をしています。

区役所生活支援課、関連各課、こころの健康相談センターも個別の課題に応じ相談を受けています。

若年のひきこもりに対する継続的な支援のノウハウが青少年支援センターにはあるが、上の年齢に対する支援策がまだないのが現状です。

横浜市の「包括的な支援体制」としては、区役所を中心としてチーム支援の体制を作り、青少年相談センターやこころの健康相談センター、発達障害支援センターなど専門的支援機関がバックアップをしていく体制構築に向けて整備を進めていく予定ですが、コロナの影響もあり取り組みが遅れがちになっています。

現在において具体的な形は提示できないものの、方向性だけでもご理解いただけたらと思います。

行政のみではこの問題は解決できません。地域の中で地域の機関を巻き込んで仕組みを作っていく必要があると思います。 

次回は「8050問題と介護」という視点から
特別養護老人ホーム和みの園 施設長 木内 菜穂子氏を講師にお迎えして開催された
「介護現場から見えた8050問題」
のセミナープレビューになります。

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