8050問題を考えるセミナー2020報告(4)講師 : 木内 菜穂子 氏

「介護現場から見えた8050問題」

私のいる特別養護老人ホーム和みの園は、戸塚区東俣野町にある80床の施設です。

老人介護施設ですが、入所施設のみでなく、地域の子どもの居場所、美容室、セラピー兼カフェ、地域食堂があり、地域に開かれていることが大きな特徴です。

今回は介護現場では8050問題に関連して、どのようなことがあるか、地域とのかかわりあいでどのようなことがあるかを話したいと思います。

特養は終の棲家

介護保険制度は2014年の制度改正により、特別養護老人ホームの入居要件が要介護度3以上に引き上げられ、寝たきり、車いす、ご家族がお世話できない方が優先となりました。

そこから取り残され、自宅で過ごさざるをえなくなってしまった方たちのご家庭にこそ、この8050問題に関する課題が見え隠れしています。

本当は困っている方が特養に入れず、家の中で孤立してしまえば、支援者の目が届かず家庭の事情が見えにくくなります。

結果、ニーズの掘り起こしをしていくことへの敷居が高くなってしまったのです。

介護現場から見えたこと

介護現場に長年おりますと、年代別にそれぞれ見えてくる課題があります。

まず7040は病病介護。親子ともども治療が必要な状態を指します。

70代の親御さんは40代の子どもがひきこもりで、世話があるため自分の治療に専念できないということがあります。

また40代の子どもさん世代はまだご自分のお子さんの年齢が若く、子育てに追われるうちに病院に行けず、重篤な状態になりがちです。

また40代のお子さんがひきこもるご家庭では70代の親御さんが倒れ
ていても手遅れになりがちなのです。

次に8050ですが、こちらは認認介護と呼びます。ご両親がお互いに認知症ということに気づかずに暮らしていて、子どもも徐々に進行する親の認知症に気づかないでいる。

両親ともにいよいよ金銭管理が難しくなったところに、施設入居が決まり、子どもと引き離されてしまうことに。

縦割りの行政はお子さんへのケアはしないので、自宅に残されたお子さんが金銭感覚のなさゆえに年金を使い込んでしまうことも。

最後に9060ですが、ずばり老々介護です。

子どもも親も老いて、心身ともに高齢になってくる時期です。

90代になると高齢になり過ごしてきた期間が長いのに加え、すごくお元気なことも手伝って感覚がマヒしてしまい、ご自分やご家族が高齢であることのリスクへの自覚がないご家庭もしばしばあります。

8050問題にあたる事例紹介

私たちがこれまでの地域の中で出会った、ひきこもりのご家庭の事例についていくつか紹介します。

ケース1

ガン末期の看取り期に入った母を看る場所がなく施設につながったケースです。

息子さんは母の病を受け容れられないのか、病床の母に「早く帰ってごはんを作ってほしい」と訴え続けていました。

特養への入居をきっかけに職員が地域に入り込むことで、閉ざされて窮状に陥っていた家庭が少しずつ開いていきました。

その後ひきこもりの息子さんは、職員の誘い掛けで掃除や草むしりなど少しの間はボランティアに来てくれることもありました。

このように少しでも介入できたことは、ただご本人の介護だけを行うのではなく、そのご家庭全体にアプローチしたことで、職員たちが「地域の中で役に立っているんだ」という実感になっていると思います。

ケース2

近所の方の民生委員さんへの相談で、ポストに手紙があふれていて呼び鈴を押しても返事がない。

それが始まりでした。

80代のご両親が認知症になっていて、40代の無職の息子さんがひきこもっているらしい。

連絡をくれる知人親戚もいたが、元々温和な方たちなので、短い近況の
やりとりでは認知症が進んでいることに気付かれなかったのです。

息子さんはアルバイトを転々としていたようで、私たちが知った時点ですでに10年以上無職ということでした。

まずはご夫婦の支援から関りが始まりました。

ご夫婦だけを施設に入れたのみでは、ご長男が孤立してしまう。

そこまで考えなければこの先様々なことが起こってくるのです。

ケース3

こちらも民生委員さんからの相談でした。

高齢の男性のもとに敬老の日のお祝いを届けに行ったところ、毎日注文が入ることに違和感を抱いていたマクドナルドの配達員さんと居合わせ、それがきっかけとなりました。

実はそのご家庭は母亡き後、父と長男で二人きりの生活をしていたのでした。

ペットボトル、新聞、漫画、マックのごみ、家の中は分別されてはいるものの、捨てきれないごみが山のようになっていました。

便利屋さんに依頼して処分すると、2tトラックにいっぱいの量になりました。

息子さんは長年コーラとマックしか食べない生活から重度の糖尿病に罹っていました。

結局息子さんのほうが先に医療が必要となり、介護保険を受給して入所されるということになりました。

たった一人のためでいい

私たち和みの園の合言葉は「たった一人のためでいい」です。

今目の前にいる、たった一人のこの人のためとたくさんのサポーターが助けてくれる。すぐには解決できないからこそ一緒に悩んでほしい。

ご本人を差し置いて、福祉関係者、専門家だけで物事を進めず、一緒に物事を決めていくこと。多数決もせずに、福祉職のしがらみや専門家としての固定観念や制度に縛られず、ご本人が支援に上手に乗れるように組み合わせていきたいと考えています。

8050問題は、まだまだ課題として認識され始めたばかりで、政治としてはグレー扱いです。
 

介護、若者支援のどこにも合わさりきらない。曖昧な色合いの今だからこそ上手く組み合わせることもできるのではないかと考えています。個々のニーズを考え合わせると、定型の支援に当て嵌め、解決していくことは難しい。

支援が決めつけにならないよう、クエスチョンを世の中に提示していきたいと考えています。

次回は「8050問題とお金」という視点から
社会保険労務士事務所AIコンサルティング 特定社会保険労務士 相川 裕里子氏を講師にお迎えして開催された
生きづらさを抱える若者と年金について「障害年金のあらまし」
のセミナープレビューになります。

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