生きづらさ抱える若者とお金について
「社会とのかかわりが少ない人のお金の問題」
- 講師 :神奈川県弁護士会 井原 綾子
- 2021年12月11日(土)
講師紹介
井原綾子
神奈川県弁護士会所属
平成23年弁護士登録。 神奈川県内を中心に多岐にわたる相談を受ける中、高齢の方、障害のある方の成年後見、財産管理、子どもにまつわる案件を多く扱う。児童相談所で非常勤の弁護士、未成年犯罪の弁護人なども担当。その他、不動産関係、離婚、相続、交通事故等様々な業務を行う。
以下の文章はセミナー当日の講師のお話を書き起こし、修正したものです。
法律的な金銭管理の原則
このお話をいただいた時、長い間おうちの中で生活していた方のご家族が、突然立て続けにお亡くなりになり、おひとりになられた方を保佐人として支援しているケースについて思い出しました。具体例も挙げながらお話していければと思います。
家族以外の人とのつながりや、社会のかかわりが少ない人とのお金の問題というのは第三者の目に触れにくいので、解決の方法を事前に整理したり、相談する機会がなく、何か起きてから問題が顕在化する事が非常に多いと思います。
このような勉強会に参加される事は大事ですし、私がこういう機会をいただくことは大変ありがたく、参考になればと思っています。
私がお金の問題を話す時に、相手がどんな方かに関わらずお話しするのは、法律的には「自分のお金は自分で自由に管理して処分するというのが原則」という事です。「家族のお金が自分のお金ではない」、この前提をきちんと踏まえないと弁護士としての支援が難しくなったり、ご本人の意思が置き去りになってしまいます。
極端な言い方をしますが「無駄遣いをしてしまうのもその人の自由」というのが基本的な考えです。無駄遣いしないように工夫することは必要ですが、最終的にはご本人の意思に沿うことが基本です。
この出発点は法律的に非常に大事だということを強調しておきたいと思います。
お金の問題に直面するきっかけ
弁護士の仕事では、社会とのかかわりが少なかったという方がお金の問題に直面するきっかけとして、相続問題が生じた時が非常に多いです。
相続人になったが、銀行での手続きが自分でできない、書類が集められない、など周囲に尋ねる事が難しい、他に相続人がいて、その人がなかなか動けないので手続きが進まないなど、
相続財産があればその方の生活が成り立つのに手続きが進まない、などの相談をいただくという事があります。大きなきっかけがないと、お金の問題に切り込んで支援していくのが難しく、家族であっても無理強いできません。
公的制度を使う
生活をしていくのに必要な資金や収入がない場合は、迷わず公的な制度を使う事を選択するべきだと思います。福祉の制度を使う事については、いろんなお考えがあり、躊躇される方もいると思いますが、特に横浜市は県内の中でも制度が充実していると思いますので、公的な制度を使う事を検討するのは重要だと思います。
制度については、その方に使える制度は何か、どんな条件が必要か、誰に聞いたらいいか、私でもわからない事が多いです。ご高齢か、障害のある方か、子どもかで役所の窓口が違いますし、難しいと感じるところです。
私も10年仕事をする中で、人とのつながりを持たせていただくことができて、この人に相談すれば何とかつながるかな・・という事を積み重ねてなんとかやっています。これは私が弁護士だからというからではなく、何か起きたときに誰にどこに、自分としてはどうしたらいいのかということを相談できるように知っておくことが大事だと思います。
気軽に「とりあえずあの人にきこう」というのが決まってるかどうかで、初動の一歩が違います。
金銭管理の支援
生活していくのに必要な収入があり、その管理がうまくできない場合は二つの方法があります。
① お手伝いをうけながら管理する
② 第三者にお金をあずける
弁護士として②をお手伝いする事が多くあります。
たとえば何千万のお金を持っているがいて、その管理はできないが、日常の管理はお財布に入れて管理できる場合。これまで家族から数万円現金で渡されて、自分の食べるものは買って何十年も過ごしていたという方が、家族が亡くなってしまい、ご家族にかなりの預金があったので、私が管理する事になりました。障害のある方なので、支援者の方と一緒にATMに一緒に行き練習をしたり、携帯電話の使い方を教えたりという事をしています。その方を支援するきっかけは、お金の管理をしていた弟さんが突然亡くなり、親戚の方が近くのケアプラザに相談しました、その方の生活支援をしていましたが、金銭の問題に直面し、ケアプラザから私に相談が来たという流れです。
相談先を決めておく
金銭管理について、誰に、どこに相談するのかをまず決めておくのが重要です。ご紹介したケースでもご家族がすべてをその人がやろうとしていたら、一年ではどうにもならなかったと思います。
こういう時はケアプラザだと親戚の方が思いついたこと、次にケアプラザの職員さんがこういう相談は弁護士に相談するという気づきがあり、チームを組んで支援ができました。私たちもたくさんの人に助けてもらいました。相談先をネットワークとして持っておくことも重要です。
お金があるかないかで言うと、あればご本人の選択肢が格段に増えます。しかし、ただお金がたくさんあっても、そのお金をご本人がうまく管理できない、使えないというとき、一番大事なのは人とのつながりだと私の経験から感じています。
人とのつながりを持てない、持つのが苦手な方にどう支えるのかという問題ですが、少しずつ「こういう人がいるんだよ」ということを知っておいてもらう事が大切です。家族がいなくなると、ご本人が嫌がっていても他人との関わりが生じざるを得ない事が多いです。先ほどの人もご本人にとって私はウエルカムな存在ではなかったですが、かなり長い時間をかけて一緒にこれをしていきましょうとお話ししてきました。
誰に、どこに、相談すべきかはその人が置かれている状況によって相談すべき場所は違いますが、ひとつの相談先で100パーセント解決するという事ではなく、とりあえず相談する人をきめておけばいいと思います。引きこもりの子どもを持つ親御さんがいろんなところに相談しているとして、
ご本人(ひきこもりの本人)にもなんとなく知っておいてもらうと、記憶の中に残っていますので、「そういえば・・・ああいう人に相談していたな・・・」という些細なつながりがあとで非常に大きな動きを生むことにもなると思います。お子さんの事を相談するときにご本人はきっとそういう相談をしていることを知っても嫌がるだろう、興味をもたないだろうと思うかもしれないですが、あきらめずに耳にいれておく、知っておいてもらいましょう。
知っておいてもらうのは2つの意味があります。相談先にこういう悩みがある人がいる事を知ってもらう事と、おうちからなかなか外に出れないご本人にも知っておいてもらう事です。
遺言と成年後見制度について
8050に関わりがあり、利用ができる法的な制度についてお話をします。まず遺言については、例えばご兄弟が3人いて、一番上と2番目は自立しているので、3番目の子どもにお金を残したいという工夫をしたい場合は遺言書をつくっておくのが便利だと思います。
次に、成年後見制度については、判断能力が不十分な本人を保護するために、裁判所が財産管理をする第三者を選任する制度です。本人の判断能力の程度によって、後見、保佐、補助、の3つの類型に分けられます。どれにあたるかは医師による診断書の内容を元に決めます。
ご本人の判断能力がいちばん低い、もしくはない場合が後見、その上が保佐、補助になります。
補助人では、判断能力がないということが日常会話ではわかりにくい程度、保佐の場合は話を正確に理解していないかな? という程度です。保佐、補助に関してはご本人の能力に応じて部分的に代理をするという形になります。(*詳しくは弁護士または専門機関にお問い合わせください。)
・「誰に」「どこに」相談すべきか
・「決めておく」
・「知っておいてもらう」
実際に行動するのは簡単な事ではありませんが、ぜひ参考にしていただければと思います。
弁護士 井原 綾子
杉原・須々木法律事務所
横浜市中区相生町4-75 JTB・YN馬車道ビル4階
045-681-4277